夜明けまで、逃げ切ったら、勝ち。

元就はどうやらこの時代に居てはいけない存在らしい。
だが…そんなモン、どうだっていい。
此処で、生きていたのは、
俺が知っている、元就であって。
彼奴等が求めている元就でなかった。
ただ、それだけだ。
同じ元就じゃないか。
元就が元就じゃなかったら、
此処に居る…俺の手を取ってくれている、
この存在は、何だって云うんだ。

「元就…もうすぐ夜明けだ！海岸で野郎共が船を用意してくれてる、其処で俺達の勝ちだ！」

必死だった。
心臓が破裂しそうになる。
そう…俺は、必死だった。

掌が急速に冷たくなる。

「元…就……？」

息が絶え絶えになる。
だが、そんなことは至極どうでもよかった。

何故…手を離した？

「もう、よい」

今…何て云った？

「もうよい、と、我は、云ったのだ」

足音が聞こえる。

「何言ってんだ！早くしねぇと追手が…！」
「だから、よいのだ」

足音が近くなる。

「何故、我は生まれたのだろうな。
何故…こんな意味の無い生を、日輪は生かしてくださったのだろう…」

呆然となる。
足音が増える。

「諦めるな！諦めたら其処で終わりだ！！」

もう一度、手を取ろうとする。
だが…拒まれる。
あと少しじゃないか。
もう少しじゃないか！

「終わりは始まり、流転の起点。
もう一度やり直せるなら、

お前と出会う時から、やり直したい。

…潮風の香り……、下は海か。
ふふ……海に抱かれてみるのも、悪くはなかろう」



護身用の、短剣…？まさか…！


「やめ、ろ」


「……


生まれてきて、すまなかった。


お前は、生きてくれ。


こんな愚かで惨めな、我のようには、なるではない。


…さらばだ。

我は我なりに、お前と居られて…楽しかったよ」



視界に、紅が飛び込んだ刹那、

重い、何かの落ちる音が…夜明けと共に、現れた。


足音は、止まる。
目的がなくなったからだろうな。



だが、俺達は負けた訳じゃない。



シアワセの意味に、最初に気付いたんだからな。










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